日本の高齢化と認知症の増加
日本は恵まれた食糧事情や衛生環境、また世界に冠たる高度な医療レベルによって長寿化が進み、一方で経済停滞による収入の減少がもたらした未婚化や女性の社会進出による晩婚化によって、出生率が低下し、今や人口の29.1%、3.4人に1人(2021年9月15日総務省公表)が65歳以上の高齢者によって占められております。
この高齢化を象徴する病気に、認知症があります。厚労省の発表によれば、2020年の時点で、65歳以上の高齢者の6人に1人が認知症で、2025年には5人に1人と見込まれております。今後の日本の医療、介護ひいては社会全体に多大な影響を与えることは必至で、我が国の為政者は、この国の経済を立て直すと同時に、真摯にこの課題に立ち向かわなければなりません。
認知症とは
では、認知症とは何でしょう。
認知症とは、記銘や判断力が低下し場所や時間、人物などの認識ができなくなり、十分な社会生活ができなくなる状態のことで、原因によって分類されます。
一つは脳の神経細胞の変性によって起こる「アルツハイマー型認知症」、もう一つは脳梗塞など脳の血管の異常による「脳血管性認知症」です。認知症の6割を占めるのが前者の「アルツハイマー型認知症」です。
アルツハイマー型認知症の脳では、記憶を司る海馬を中心に「糖化」で生じるAGEsやβアミロイドと言われる異常なタンパク質の蓄積がみられ、萎縮が起こります。
認知症を発症すると、ちょっと前に摂った食事の内容が思い出せなかったり(進行すると食事を摂ったことすら忘れる)、物の置き忘れといった比較的短期の記銘障害が起こり、衣類のボタンの付け外しや家事の段取りがうまくいかなくなります。
新聞や雑誌、テレビといった情報に関心がなくなり、簡単な引き算などの計算ができなくなります。また、妄想を抱いたり、昼夜逆転が起こったり、肉親の認識や時間空間的な認識ができなくなる「見当識障害」を起こします。
認知症のお年寄りが家人の隙をついて、外に飛び出し、電車に轢かれ、損害を被ったJR側が遺族相手に損害賠償を起こした裁判は記憶に新しいと思います(最終的に最高裁では遺族に責任はないとの判決が出ました)。
また、コロナの感染爆発で医療が逼迫する中、特に、認知症を患ったコロナ感染者のケアは医療従事者にとってたいへんな負担になっていることでしょう。
ロッテルダム研究
1999年に発表されたロッテルダム研究では、非糖尿病高齢者に対し、糖尿病高齢患者では、脳血管性認知症が2.0倍、アルツハイマー型認知症が1.9倍の発症率と高かったことがわかりました。
更に、インスリン治療を受けている糖尿病患者では、アルツハイマー型認知症の発症率がなんと4.3倍にもなりました。
高インスリン血症では、インスリンの代謝に追われてβアミロイドを排除できなくなることが、一つの原因と考えられております。
脳のエネルギー不足が認知症をもたらす
脳のエネルギー源はブドウ糖です。第15回のブログにも書きましたが、休むことのない脳へのブドウ糖供給は脂肪酸をエネルギー源としてアミノ酸からブドウ糖への転換、すなわち「糖新生」により絶えず行われております。
では、脳がエネルギー源としてブドウ糖を使えなくなったらどうしましょうか。
安心してください。私たちは、脂肪分解により生じた脂肪酸を肝臓に持ち込むことによってケトンを作り、これが脳へのエネルギー供給を果たします。
ただし、それには、しっかりとした糖質制限により、エネルギー産生経路が、ブドウ糖-グリコーゲンシステムから脂肪酸-ケトン体システムに転換される必要があります。
そこで、アルツハイマー型認知症の話に戻ります。実はアルツハイマー型認知症はブドウ糖をエネルギー源としてうまく使えなくなることにより起こると言われており、「3型糖尿病」と呼ばれます。
アメリカの小児科医であるニューポート先生は、「アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞がエネルギー源であるブドウ糖を取り込むことができないことによって生じる」とした論文を基に、ブドウ糖に変わる脳へのエネルギー源としてケトン体に注目し、ココナッツオイルとMCTオイルを使って、若年性アルツハイマー型認知症の夫の治療に効果を上げました。
MCTオイルは60%のカプリル酸と40%のカプリン酸からなり短時間でケトン体を生成しますが、コオナッツオイルは60%の中鎖脂肪酸と40%の長鎖脂肪酸からなり、中鎖脂肪酸のうち76.5%はラウリン酸です。
ラウリン酸はカプリル酸やカプリン酸に比べると代謝が遅く、ゆっくりとケトン体を生成します。
従って、ココナッツオイルとMCTオイルを組み合わせ、ケトン体生成までの時間差と持続時間差をうまく使い長時間ケトン体を作用させることにより、認知症の治療を行うというものです。
短時間でケトン体を生じるが3時間程度で元のレベルに戻るMCTオイルに加え、ゆっくり立ち上がって7〜8時間持続するココナッツオイルを使うことでケトン体値を高く維持できるのです(第20回ブログにも同様の記事を載せております)。
ケトン体はダイレクトに神経細胞の細胞膜を通過し、ミトコンドリア内に取り込まれ、神経細胞の働きを高め、認知機能を改善します。
(図は宗田先生の『最強の油・MCTオイルで病気知らずの体になる!』からお借りしてます)
ケトン体血中濃度と認知症の改善
下図は、サミュエル・T・ヘンダーソン先生の実験で、認知機能障害が見られる20名を対象に、ケトン体の血中濃度と認知機能改善の関係を調べたものです。
ケトン体の血中濃度が500μmol/l程度まで上昇すると、認知機能がかなり改善することがわかります。
(図は白澤卓二先生の著書 体が生まれ変わる「ケトン体」食事法からお借りしています)
また、国立精神・神経医療研究センター神経研究所と株式会社明治は、共同研究により、ケトン食は一般の人にとっても認知症の予防に有効だと2016年8月、国際科学雑誌「Psychopharmacology」のオンライン版で公開しました。
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