第30回 太るのはカロリー(脂質)を多く摂るからではなく、炭水化物(糖質)を多く摂るからである

第29回のブログに出てきたダイレクト試験について触れましょう。

2008年の「New England Journal of Medicine」に掲載されたもので、タイトルは「Weight Loss with a Low-Carbohydrate, Mediterranean, or Low-Fat Diet」です。すなわち、低炭水化物食、地中海食、低脂肪食のうち、どれが一番体重減少をもたらすかを調べた研究です。

「New England Journal of Medicine」という雑誌は、学術誌の中でも超一流で、2017年のインパクト・ファクター(論文がどれほど引用されたか)ランキングで2位になっております。

イスラエルにある巨大な原子力関連施設の医療関係者322人を対象にしました。対象者は関係者食堂を利用したので食事を厳格に管理できたと思います。平均年齢52歳、男性86%、平均BMI 31(中等度肥満)、2年間の研究です。

図にある通り1群の低脂肪食、2群の地中海食、3群の低炭水化物・カロリー無制限食に分けられました。

結論は、カロリー制限を全くしなかった低炭水化物食で、最も減量効果が高く、脂肪を減らした低カロリー食がずば抜けて成績が悪いというものでした(牧田先生の著書・医者が教える食事術2の中での表現を借りれば)。

ここで、私なりに、もう少し踏み込んで、この研究の要点をまとめ、考察してみたいと思います。

1.地中海食も減量効果があり、低脂肪食も他の2郡には劣るもののカロリー制限と糖質摂取量の減少により減量効果があった。

2.地中海食は低脂肪食に比べ、脂質摂取量(35% vs 30%)が多い分、糖質摂取量が少くなり減量効果をもたらした。

3.地中海食はオリーブオイルによる血糖降下作用が減量に働いた。

4.低炭水化物食は低脂肪食に比べTC/HDL-C低下率が大きかった(20%vs12%)。(脂質プロファイルとしては有利な方向へ)

5.糖尿人(36人)にとっては地中海食の方が低脂肪食より空腹時血糖値、インスリン値の低下をもたらした。

6.どの群も開始5か月で減量効果はピークを迎えたが地中海食はその後も同様の減量効果が持続した。

以上から、私の結論は、地中海食も、低炭水化物食に劣らず減量効果があった。

アメリカ糖尿学会(ADA)は、2019年4月「糖質制限食」と「地中海食」の二つを、糖尿病の食事療法として、他とは別格に有効性が高いものとして認定しております。

もう一つ、論文にあった興味深い話を披露しましょう。

ネットで調べたところ、イスラエル人男子の平均身長は177cmとあり、平均BMIが31ということは平均体重97.1Kgということになります。

イスラエル人の1日の平均摂取カロリーは3600Kcalとのことですから、地中海食群、低脂肪食群は通常摂取カロリーの半分ということになります。

低炭水化物食群の体重減少効果は3群の中で1番高かったのですが、adherence(継続性)は1番低かったのです。

参加者322人のうち1年間の貫徹者は95.4%、2年間では84.6%(低脂肪食郡90.4%、地中海食郡85.3%、低炭水化物食郡78%)となっており、体重減少は低脂肪食郡マイナス3.3%(total2.9Kg、貫徹3.3Kg)、地中海食郡マイナス4.7%(total4.4Kg、貫徹4.6Kg)、低炭水化物食郡マイナス5.7%(total4.7Kg、貫徹5.5Kg)でした。

カロリー制限のなかった低炭水化物郡は、確かに体重減少効果は大きかったのですが、継続性に問題があることがわかりました。

糖質には中毒性、依存性があり、マイルドドラッグと呼ばれることもあります。

この研究は糖質制限が減量に効果的であることを示した一方、強固な意志がなければ、糖質摂取の制御が難しいことを示しております。

糖尿病の克服の難しさは、まさに、ここにあるのです!

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